子育てに役立つ鉄道絵本(3) その正しい使いかた 想像力を伸ばす最適期は3~5歳?

弘田 陽介(福山市立大学大学院・教育学研究科准教授)

更新:2016-06-01

3歳ごろまでに親子で絵本を読む習慣をつけていますと、それ以降は子どもたちが自然に自分たちで絵本を取り出してきて頁をめくっていたり、お父さん・お母さんが居間にいると絵本をもってきて読むようにせがみます。子どもが一人で読んでいても、保護者と一緒に読んでいても、何度でも飽きないのは山本忠敬さんの『しゅっぱつしんこう!』(福音館書店、1984年)ですね。

 都会の駅から田舎のおじいちゃんのところまで、お母さんと一緒にみよちゃんが里帰りです。都会の駅からは懐かしのL特急、地方都市からは急行、そして最後の乗り換えでは鈍行に乗りますが、一緒に旅をしているかのような情景を味わうことができます。列車を含む風景には、ディテール満載で描かれている事物をめぐって子どもたちと話をすることもできます。都会のビルの中から、鉄橋や田園地帯を抜けて、次第に奥深い山地に分け入っていく鉄道の旅は、子どもたちに地理や自然への興味を湧き起こすでしょう。また、この絵本を見ながら、これまでご家族で行かれた旅行や帰省などを振り返ってみるのもよいかもしれません。

 さらに、この『しゅっぱつしんこう!』からはいろいろなことを学ぶことができます。三度の列車への乗車は、同じ構図で描かれ、先ほどの赤ちゃん絵本と同様に反復・繰り返しの原理が貫かれています。しかし、この三度の鉄道への乗車は、単なる反復ではなく、普段住んでいる都会からおじいちゃんの田舎まで旅をするという物語の一部になっています。

 この3歳ごろの時期に、発達に合ったお話を与えてあげると、子どもたちは一つの物語をベースに絵本の各頁を理解する能力が身につきます。各頁をばらばらに楽しむのではなく、「次はどうなるのかな」「この女の子はどこに行くのかな」など、頁と頁をつなげながら絵本を聞いていく力が身につきます。3歳から5歳ごろまでは想像力を伸ばすのに最適の時期です。頁と頁の間にある見えないつながりを、想像力で補って、一つの物語を読み取っていく。今後の子どもの成長にとって欠かすことのできない能力の萌芽は、この時期に養われるものです。

執筆者

  • 弘田 陽介
  • 福山市立大学大学院・教育学研究科准教授
  • 大阪市出身。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了(教育学博士)。
    現在、福山市立大学大学院・教育学研究科准教授。
    専門はドイツ教育思想(18世紀後半~、カント、啓蒙主義、神秘主義)、実践的身体教育論(整体、武術、プロレスなど)、子どもと保育のメディア論(アートや鉄道趣味など)。
    著書として、『近代の擬態/擬態の近代』、『子どもはなぜでんしゃが好きなのか』の他に、鈴木晶子編『これは教育学ではない』(冬弓舎、2006)、『教育文化論』(放送大学、2005)にも寄稿。雑誌『日経Kids+』やNHK「あさイチ」毎日放送「ちちんぷいぷい」、朝日放送「キャスト」などでは独自の鉄道文化論が紹介されている。
  • ふぁみなび:学校法人 城南学園紹介ページ