「子どもの学び」③ 子どもと音楽

豊島 久美子(大阪樟蔭女子大学児童学部児童学科 講師)

更新:2016-08-03

音楽は脳を育む!

 小さいお子様と過ごす際に、何気なく歌を歌っていることはありませんか?泣いている子どもをなだめたり、あやしたり、寝かしつけたり、あるいは親子で一緒に楽しむために・・・など子どもとの生活のなかでは、ふと気づくと歌を口ずさんでいることはよくあることです。
 一般に芸術は“心を豊かにする”といわれますが、音楽は“芸術”という枠にとどまらず、子どもたちのさまざまな能力を引き出すことが、近年の研究により明らかになってきました。音楽は子どもの脳を育むことに貢献しているのです。
 では、幼児期に音楽と触れあうことでどのような効果が期待できるのでしょうか?音楽の訓練(楽器の演奏)が子どもの脳に与える影響を調べた研究があります。わずか15ヶ月間、集中的に音楽の訓練を受けただけでも、脳の”聴覚野”と呼ばれる音の処理を司る部分の構造に変化が起きるという報告があります。また6歳から12歳までの6年間、音楽の訓練を受けた人と、受けなかった人との間で、視覚や言語の記憶に違いが出るかを調べた研究があります。その結果は、音楽の訓練を受けた子どもは受けなかった子どもに比べ、言語記憶がまさっていたと報告されています。別の研究では、音楽訓練を受けた子どもは、外国語学習や読書能力にも優れていたとの報告もあります。
 じつは音楽の訓練には、ただ単に音を聞くという活動だけではなく、さまざまな要素が含まれています。たとえば、楽譜を読む力、運動能力、自分の演奏した音を聴きとり聞き分ける力、さらには長時間の練習にともなう注意力や集中力などが必要となります。つまり、音楽の訓練をするということは、聴覚や視覚、運動機能などを連動させ、いちどに複合的な活動をするということになります。複雑な要素を含む音楽の訓練を幼児期から施すことは、子どもの能力を引き出す効果的な方法のひとつと言えるでしょう。

脳全体をつかって音楽を感じる!

 当然のことながら、音楽の訓練により得られる効果は、レッスンを始める年齢や経験年数、練習量などに左右されます。また、音楽に対する好みも影響してきます。小さいお子様にどのようなお稽古事をさせようか、何歳からお稽古事を始めようか、とお考えの親御さんも多いのではないかとおもいますが、お子様の興味の向いた時に、惹かれているものを習わせてあげるのが一番ではないでしょうか。
 また、お稽古事としてだけではなく、日々の生活の中で音楽を身近なものとして感じることのできる環境を整えることにも意義があります。楽器を演奏することや、歌を歌うことに加え、”音楽を聴く”ことによる影響も多くの研究から明らかになっています。私が携わってきた研究においても、感動する音楽を聴くと、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾル値が減少し、音楽がストレスを軽減することが明らかになっています。また、認知機能とも深く関わっているステロイド・ホルモンのバランスを調整することも分かっています。ここで大切なのは“感動する音楽”であることです。音の処理は脳の“聴覚野”で行いますが、“感動”をもたらすのは、どこか脳の一部分だけの働きでは無く、脳全体の働きによるものであることが分かっています。音楽は、脳の活動を高めると同時に、ある部分では低下させることで、感動をもたらしています。つまり、わたしたちは脳全体をつかって音楽を感じているのです。
 音楽は、老若男女を問わず、わたしたち人間の脳に働きかけ、身体や心へのさまざまな効果をもたらしてくれます。みなさまも生活の中で、折にふれてご家族で音楽を楽しむ時間をつくってみてはいかがでしょうか。お子様が「この音楽がとっても好き!」「感動する!」といえる音楽を、ぜひ一緒に探してみてください。きっと音楽が、お子様の健やかな成長を助けてくれることでしょう。

(参考文献:「音楽の感動を科学する」福井 一・著 化学同人 2010)

 

執筆者

  • 豊島 久美子
  • 大阪樟蔭女子大学児童学部児童学科 講師
  • 奈良教育大学大学院教育学研究科(修士、教育学)、大阪大学大学院人間科学研究科(博士、人間科学)を修了。専門分野は、音楽心理学・音楽生理学。音楽によって人間の心理状態や生理状態がどのように変化するのか、またその変化には人間が生きていく上でどのような生物学的意義があるのかということを、生理学の手法を用いて研究している。
  • ふぁみなび:大阪樟蔭女子大学紹介ページ