「子どもの学び」② 子どもと環境

山本 一成(大阪樟蔭女子大学児童学部児童学科 講師)

更新:2016-06-01

自然に触れるメリット

 2005年にアメリカで出版され話題となった子育てに関する本に、『あなたの子どもには自然が足りない』(リチャード・ループ著、春日井晶子訳、早川書房)があります。アメリカでは21世紀に入って子どものうつ病が急増し、その原因がさまざまなかたちで研究されたのですが、そのひとつとして挙げられたのが自然体験の不足でした。豊かな自然の近くに住む子どもは、普段自然に触れない子どもたちに比べて、行動障害、不安、鬱を患う割合が小さく、自己評価が高いという研究があります。また、都市に住んでいても、窓から自然を眺めることができたり、小さな植物に触れることができる環境で生活するだけで、ストレスの蓄積を防ぐことができることなども明らかになりました。アウトドア派、インドア派は、それぞれの好みかもしれませんが、少なくとも日常のなかで小さな自然に触れることが人間の感情に良い影響を与えていることは間違いないと言われています。

自然が伸ばす想像力と創造力

 もうひとつ、自然のなかで遊ぶことの魅力は、自然が子どもの想像力や創造力を伸ばしてくれるということです。室内で遊ぶときに使う既製品のおもちゃは遊び方があらかじめ決められていますが、自然環境のなかにある素材は、それを使ってどのように遊ぶかを自分で考えなければなりません。たとえば、石ころといった素材を見つけた子どもは、自分でそれを使った遊びを発明します。蹴って転がす子どももいれば、集めて宝物にする子どももいます。もしかしたら、ごっこ遊びで使うお金の代わりになるかもしれません。このように人から与えられた方法で遊ぶのではなく、自分で遊ぶ方法を生み出していく際に、子どもたちの脳は最も創造性を発揮します。水や土、落ち葉や木の枝といった素材は、使い方が決められておらず、様々な遊びの可能性を備えているからこそ、子どもたちにとって最高の素材となっているのです。

 ところで、下の写真に写っているエビフライのようなものが何か、みなさんご存じですか?実はこれ、リスが食べた後のまつぼっくりなんです。都会に住んでいると忘れてしまいがちですが、公園などの身近な環境にも意外と多様な動物が一緒に生活しています。一歩屋外に出てこのような動物の痕跡に触れることも、子どもたちの想像力を大いに刺激してくれます。

大きな自然と小さな自然

 山を登って壮大な景色を見たり、きれいな水の流れる森を散歩したり。大自然に包まれるのは想像するだけで心地よいですが、実際にはなかなか子どもを連れて遠くに出かけるのは大変です。大きな自然体験はなかなかできなくても、近所の道端に咲く花の香りを嗅いでみたり、夜空の星を眺めてみたり、日常のなかの自然にふと目をとめてみるだけでも、自然との距離を縮めることができるはずです。子どもと一緒に身近な自然を探してみると、きっといいことがあるはずですよ。
 

執筆者

  • 山本 一成
  • 大阪樟蔭女子大学児童学部児童学科 講師
  • 1983年、埼玉県に生まれる。自分が卒園した保育園がとても楽しかった記憶がずっと残っており、子どもの頃から保育に関わる仕事がしたいという夢をもつ。2008年から2011年まで、親子で一緒に通う幼児教育施設(京都造形芸術大学こども芸術大学)にて芸術教育士・保育士として勤務。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程を経て、2014年より大阪樟蔭女子大学児童学部講師。専門は臨床教育学で、特に子どもの想像力や生命観に関心を持っている。
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